ビジネスPCのキッティング時に気を付けるべきポイントとは?

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はじめに
本記事をご覧いただいている皆様の職場では、Windows 10へのOS移行はお済みでしょうか?それとも、まだしばらくWindows 7をお使いになる予定でしょうか?
日本企業におけるWindows 10の導入状況は色々な調査機関のレポートによると、概ね50~60%を超えてきているといった状況かと思います(本記事執筆時点)。但し、まだまだ小規模でのトライアル導入という企業が多く、本格導入はこれからという企業も多いのではないでしょうか?
本記事では、これから本格的にWindows 10へのOS移行を計画されている情報システム部門の担当者様向けに、PCをキッティングする際に気を付けるべきポイントについて、ご紹介します。
キッティングとは?
キッティングとは、企業内で使用するPCをすぐにエンドユーザーが使える状態にするために必要な一連の設定作業のことをいいます。具体的には、以下のような作業が含まれます。(セットアップやデプロイメントという言葉が使われることもあります。)
- OSのインストール
- ネットワーク設定(ホスト名、IPアドレス等)
- 各種ドライバーのインストール(プリンター、IPフォン等)
- 業務アプリケーションのインストール
- ライセンス認証(※必要なもののみ)
- OS・アプリケーション等の各種設定
- セキュリティパッチの適用
- ドメイン参加
- ラベル貼付
キッティング方法によるメリット・デメリット
PCをキッティングする場合、大まかに2つのキッティング方法があります。
1つは、1台ずつ手作業でキッティングする方法と、もう1つは、事前にマスターPC(参照コンピューターとも言う)と言われるコピー元となるPCを作成しておき、複数台のPCに対してディスクイメージをまるごとクローニング(コピー)し、その後残りの個別設定作業を実施する方法です。
それぞれの作業方法によるメリット・デメリットは、以下の通りです。
1. 手作業でキッティングする
- メリット
PCが手元にあれば、すぐにキッティング作業に着手できます。台数が少なければ短納期でキッティングを完了することができるため、小回りの利くキッティング方法です。PCの台数が少ない場合、数台レベルで機種が多い場合、短納期作業の場合は、手作業によるキッティング方法を推奨します。
- デメリット
1台ずつ手作業でキッティングするため、人為的なミスにより品質にばらつきがでたり、目に見えない費用として人件費が発生するため1台当たりのキッティング単価が高くなったりする傾向があります。そのため、キッティングするPCの台数が30台~50台くらいになってくるとコスト面・品質面・設備面を考えて、手作業でキッティングするメリットは薄まります。
2. クローニングでキッティングする
- メリット
マスターPCと言われるコピー元となるPCを事前に作成し、そのハードディスク/SSDのディスク全体のイメージ(マスターイメージまたは標準イメージと言う)を使用してクローニングすることで、大量のPCを一度にキッティングすることが可能となります。つまり、物理的にコピーするだけなので、作業効率および作業品質を均一化することができます。PCを並べる場所と電源に余裕があれば、数百台でも短期間で量産することが可能となります。
また、ハードウェア故障に備えて、事前に交換用の代替機を用意しておけば、PC故障時でもこのマスターイメージを使って、すぐにエンドユーザーに代替機を渡せることが可能となります。但し、データ移行作業は別途必要です。 - デメリット
コピー元となるマスターPCを事前に作成することが必要ですが、このマスターPCを作成から検証作業までには数週間~1か月程度の時間が必要です。また、SYSPREPコマンドによる一般化(ユーザー情報やライセンス情報の削除)やマスターイメージの抽出等の作業が必要となるため、ある程度の技術力および経験が必要となります。
また、導入するPCの機種が多い場合、多くの場合において機種毎にマスターPCを作成する必要がでてきますので、機種が多いとさらに多くの時間がかかります。Windows 10の場合、年に2回大規模なアップデートがリリースされますので、どのOSバージョンでマスターPCを作成するか、いつマスターPCを更新するかも含めて検討しなければなりません。
キッティング手順
本項では、手作業でキッティングする場合およびクローニングでキッティングする場合の具体的な作業手順についてご紹介します。
手作業でキッティングする場合
手作業でキッティングする場合は、以下のような作業手順となります。導入するアプリケーションや社内環境によって作業手順が前後する場合がありますので、予めご了承ください。
- PCを用意し、電源を入れる
- ログインユーザーを作成する
- ホスト名やIPアドレス等を設定する
- 必要な業務アプリケーションをインストールする
- ライセンス認証を実施する(※必要なもののみ)
- セキュリティ設定、省エネ設定、ブラウザ設定を実施する
- セキュリティパッチを適用する
- ラベルを貼付する
クローニングでキッティングする場合
クローニングでキッティングする場合は、以下のような作業手順となります。導入するアプリケーションや社内環境によって作業手順が前後する場合がありますので、予めご了承ください。
- マスターPC(参照コンピューター)の作成
OSセットアップ後に表示されるOOBE画面にて[Ctrl] + [Shift] + [F3]を押下し、監査モードでOSにログインします。その後、手作業でキッティングする場合と同じ作業手順を実施し、全PCのコピー元となるマスターPCを作成します。
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SYSPREPによる一般化
OSに付属しているSYSPREPコマンドによる一般化を実施し、マスターPCに含まれるユーザー情報やライセンス情報を削除し、クローニングできる状態にします。 -
マスターイメージ(標準イメージ)の抽出
SYSPREPによる一般化が完了した後、DISM※1やWDS※2、もしくはサードパーティー製のクローニングツールを使ってマスターイメージを抽出し、マスターイメージを配信するサーバーにデータを保存します。マスターイメージは、何度も作り直す可能性があるため、識別できるよう対応モデルや作成日付をイメージファイル名につけておくと良いでしょう。
※1…Windowsのイメージにパッケージやドライバー等を追加・削除できるコマンドラインツール
※2…Windows Deployment Serviceの略で、OSをネットワーク経由で大量展開できるサーバーOSに付属する役割の一つ -
各PCのブートオーダーの変更
クローニングする際、一般的にはマスターイメージをマルチキャストという方式で全台のPCに同時に配信します。その際、サーバーに保存されたマスターイメージを各PCのディスクにコピーするためのブートプログラムが必要となるため、各PCのBIOS/UEFI上でネットワークブートするようにブートオーダーを変更します。 -
クローニング
クローニングツール等を使ってマスターイメージを各PCに配信します。 -
個別キッティング
マスターイメージに含められなかった業務アプリケーションのインストールや各種設定作業(ホスト名、IPアドレス、ラベル貼付等)をPC1台ずつ個別に設定作業を実施します。 -
評価
クローニングおよび個別キッティングが完了した後、マスターPCにて設定した項目が反映されているか、業務アプリケーションが動作するか動作評価を実施します。
気を付けるべきポイント
本項では、クローニングでキッティングする場合に、気を付けるべきポイントについてご紹介します。
マスターPC作成時
- ボリュームライセンスの購入が必要
クローニングしてPCを大量展開する場合、OSのボリュームライセンスに付随する「再イメージング権」が必要となります。この再イメージング権がないままOSをコピーしてしまうと、ライセンス違反となりますので、事前にボリュームライセンスを購入してください。
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プレインストールされたWindowsで、マスターPCを作成してはいけない
購入したPCにプレインストールされているWindows OSは、その購入したPCに対してのみ使用が認められたOEMライセンスとなります。そのため、他のPCへのクローニングに使用することは認められていません。必ず、ボリュームライセンスメディア(ISO)をダウンロードして、そのインストールメディアを使用してマスターPCを作成してください。
なお、ボリュームライセンスメディアには、PCベンダーが提供するドライバーやアプリケーションは含まれておりませんので、各PCベンダーが提供しているドライバーやアプリケーションを一つ一つダウンロードおよびインストールする必要があります。 -
ライセンスの認証回数上限を増やしておく(MAK認証の場合)
ボリュームライセンスを使用してクローニングおよびキッティングを進めていく前に、ライセンスの認証回数上限値の変更をマイクロソフト社またはライセンス購入元のベンダーに申請し、購入ライセンス数と同じ数まで増やしておくことを推奨します。キッティングの最中にライセンス認証が通らず、エンドユーザーへのPC納品が遅れるリスクがあります。 -
デバイス情報の重複に注意する
ウィルス対策製品や資産管理ツールなど、管理サーバーで一元管理するタイプのアプリケーションを各PCにインストールする時は特に注意が必要です。これらのアプリケーションの中には、インストール時にユニークなIDを生成し、各PCを識別しているものがあります。クローニングにより大量展開する際にこのユニークなIDまでコピーされてしまい、管理サーバー上でデバイス情報が重複してしまい、台数分のデバイス情報が表示されないというケースがあります。そのため、各アプリケーションベンダーにクローニングしても問題ないのか、ID初期化等の処理が必要なのか予め確認することを推奨します。
個別キッティング時
- インベントリデータを収集しておく
適切なIT資産管理を行うため、エンドユーザーにPCを配布する前に、ホスト名、IPアドレス、シリアル番号、MACアドレス等のインベントリ情報を収集しておくことを推奨します。資産管理ツールを導入するのであれば、PC展開後でもいつでも収集可能ですが、資産管理ツール未導入の場合は、PC展開後にインベントリ情報を収集することは難しくなります。
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ラベルを貼付する
エンドユーザーからPCの不具合に関する申告があった場合に備えて、ホスト名や資産管理番号等をラベルに記載し、貼り付けておくことを推奨します。また、資産の棚卸しの際にも個体の識別がしやすくなります。展開前にPCに貼付するラベルに記載する内容・貼付位置についても確定しておくとよいでしょう。 -
同梱物を決定する
大量にPCを展開する場合、マニュアル等は数部のみを保管し、残りは事前に破棄する企業も多いようです。最近では、マニュアルもPDF等のデータで入手可能なため、共有ドライブやグループウェアから参照できる場所に保存すればよいと思います。 -
設定結果を保存する
個別キッティングは手作業となるケースが多いので、設定漏れ等がないのか後から確認できるようにバッチやスクリプト等で確認し、その結果を保存するようにすると良いでしょう。
評価時
- 必ず評価用PCを作成し、動作確認をする
マスターPCの作成および個別キッティングの内容が確定した後、必ず評価用PCを1~2台作成し、動作上問題がないか必ず展開前に確認してください。
通常、マスターPC作成の最後のステップでOSに付属するSYSPREPコマンドを実行し、ユーザー情報やライセンス情報といった固有情報を初期化します。しかし、このSYSPREPコマンドを実行した後、他のPCにクローニングして展開してみるとマスターPCに設定した項目が反映されていないといったケースが多々あります。
そのため、必ずマスターイメージを展開した評価用PCを作成して、個別キッティングが完了した後、本来あるべき状態や動作になっているのか確認してください。また、可能であれば評価用PCを2台作成し、資産管理ツール等の管理サーバー上でデバイス情報が重複してないか確認してください。
運用時
- 定期的にマスターイメージを更新する
Windows 10では、Creators Update、Fall Creators Updateといった大型アップデート(機能更新プログラム)が年2回実施される計画となっています。この機能更新はサポート期間が18か月と決まっていますので、古いマスターイメージを定期的に更新する必要があります。
例えば、PCが故障して交換用の代替機を送付する際に、古いバージョンのOSのままでPCを出荷してしまうと、エンドユーザーにPCが到着した後に4GB程度の機能更新プログラムが勝手にダウンロードされ、適用されてしまいます。
さらに、機能更新プログラムが適用された後、各種アプリケーションのアップデートも必要となる可能性が高いため、PCがエンドユーザーの手元に届いてから、再度キッティングし直さなければならないといったことも想定されます。そのためにも定期的にマスターイメージを更新し、OSだけではなく、アプリケーションも含めて管理し続けていく必要があります。
まとめ
本記事では、PCのキッティング方法、なかでもマスターイメージの展開を利用したキッティング方法と、その際に気をつけるべきポイントについてまとめさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
手作業によるキッティングは小回りが利きますが、大規模展開には向きません。展開するPCの台数が多い場合は、マスターイメージを使用してキッティングする方法に切り替える必要がでてきます。場合によっては自社でのキッティングではなく、キッティング専門業者に作業委託することも検討要素の一つになるのではないでしょうか。
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